これまでご愛読頂きありがとうございました、最後に、日経から以下のコラムを抜粋して紹介します。良いお年をお迎え下さい。
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「二酸化炭素(CO2)から燃料を作る」。こんな夢のような技術の実用化が近づいてきた。地球温暖化の元凶ともいうべきCO2を分解して燃料の原料を生成するのが特徴で、日本企業が技術面で大きくリードし始めている。資源小国日本の救世主となるか。注目を集めそうだ。
この技術の決め手となるのが人工光合成だ。半導体パネルで太陽光を受け、水を酸素と水素イオンに分ける。次に触媒を使って水素イオンでCO2を分解し、メタノールなど燃料の原料になる一酸化炭素(CO)を作る。
日本では既に東芝やパナソニックの他、豊田中央研究所等が重要分野の1つとして研究開発に取り組む。実現のポイントとなるのが、地表に届く太陽光エネルギーのうち生成できるエネルギーの割合を示す「エネルギー変換効率」だ。この数値が高ければ高いほど実用化に近づく。採算ラインの目安は10%。
もちろん、欧米やアジアなどのメーカーも夢の技術を手に入れようと懸命に研究を進めている。だが、ここにきて日本企業がエネルギー変換効率の上昇に成功。主導権を握る可能性が出てきた。今年11月、東芝は国際学会で変換効率を1.5%に高めることに成功したことを明らかにした。それまではパナソニックの0.3%が世界最高とされていた。植物の光合成の変換効率は一般的に0.2%と言われる。
なぜ東芝は1桁も効率を高めることができたのか? 従来の研究では、水と酸素を分けるために使用する半導体には酸化チタンやインジウムリン、窒化ガリウムなどを使っていた。これらの素材は太陽光エネルギーの3%しかない紫外光しか利用できない。窒化ガリウムなどは価格も高く「実用化には向かない」。
そこで小野さんは太陽光のうち54%を占める可視光に着目。可視光を吸収できる素材を探し始めた。試行錯誤の末、シリコンやゲルマニウムが可視光を効率的に吸収できることを突き止めた。これらを重ね合わせることで独自の半導体を完成。価格も「従来の方法より比べものにならないくらい安くできる」。さらに水素イオンでCO2を分解する過程も見直した。触媒にはナノサイズの金を利用。CO2を分解するためにかける電圧が小さくて済む。
例えば、ごみ処理工場の隣接地に人工光合成プラントを建設したとする。1万平方メートルのプールに半導体パネルを沈めて、ごみ処理工場から排出したCO2を1日に3トン反応させる。これにより生成したCOを水素と結びつける。仮にエネルギー変換効率が10%に達していれば「1日に3700リットルのメタノールに変換することが可能だ」と小野さんは説明する。東芝は火力発電所などから出る排ガスからCO2を分離・回収・貯蔵する技術開発を進めており、こうした技術と組み合わせて提供する考えだ。
経産省は今年8月に公表した「エネルギー関係技術開発ロードマップ」に人工光合成の実用化に向けた実証実験を22年度に始めるとの計画を盛り込んだ。官民挙げての研究開発がこれから本格化する。
人工光合成の技術の実証に世界で初めて成功したのは豊田中央研究所だ。今から3年前のことだ。その時の変換効率はわずか0.03〜0.04%。それから3年余りでエネルギー変換効率は約40倍に高まった。人工光合成は空気中のCO2を減らしながら、燃料まで生み出せる一石二鳥の技術といえる。資源の確保に四苦八苦してきた日本が世界のエネルギー情勢を一変させる日が来るかもしれない。